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熊本家庭裁判所 昭和39年(家)89号 審判 1964年1月31日

申立人 大田一郎(仮名)

申立人 大田二郎(仮名)

申立人 大田花子(仮名)

右二名法代定理人親権者父 大田松吉(仮名)

申立人 大田三郎(仮名)

右法定代理人親権者父 大田松吉(仮名)

同母 大田梅(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

本件申立の趣旨及び原因は別紙のとおりである。

当裁判所は、氏の呼称の異同を離れて、氏の異同を論ずるべきでなく、その呼称が同一である限り、その縁由いかんやその戸籍の異同にかかわりなく、同一の氏とみるのが民法を一貫する法理に即した解釈と認める。

以上の見解に反して、氏の異同をその由来や戸籍の異同等によつて明らかにしようとする立論も存する。この立論自体、かつての家の呼称である氏の制度が昭和二二年法二二二号により根本から改められたことを見落しているのでなければ、氏共同体という無益な思弁を用いて過去の氏の制度をできる限り温存しようとするものであつて、憲法の精神を無視するものである

民法七九一条一、二項の趣旨は、子がその親と呼称を異にする氏を有する場合、通常親子が同一の氏を有する事実に基因する子の社会生活上の不便自体やそれを原因とする子本人の感情のうえの問題を除去するため、権利の濫用にわたらない限り、子の意思によつて氏を改めることを許容するものである。家庭裁判所はその制度の本質からみて、法律上も社会生活上もなんらの意味をもたない戸籍編成上の問題について判断すべきものでなく、親と子の氏の呼称が同一である場合に、子の氏の変更を認めるべきか否かを議することは民法七九一条一、二項、家事審判法九条一項甲類六号により家庭裁判所に与えられた権限と関係がない。したがつて、すくなくとも民法七九一条に関する限り、氏の異同は、もつぱらその呼称の異同によつて決すべきある。

したがつて、「大田」を称する申立人らと「大田」を称するその父あるいは父母とは氏を同じくするから、本件は民法七九一条により許可する限りでないので、主文のとおり決定する。

(家事審判官 高山晨)

別紙 <省略>

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